コラム

「秋」「祭」で感じること

連想するのは、金木犀です。


街角を歩くと、どこからともなく祭の太鼓や鉦の音が風に乗って響いてきます。
その音に包まれるたび、ふと金木犀の香りが鼻をくすぐります。

あの香りが漂うと、幼いころの記憶がよみがえります。
母に手を握られ、母の実家の近くのあぜ道を歩いて祭へ向かった日のこと。
夕暮れの空が少し赤く染まり、遠くでお祭りの鐘の音が聞こえる。そのときの金木犀の香り――そんなおぼろげな情景です。

気づけば、あれから六十年以上の歳月が流れました。
けれども、秋風に乗って金木犀の香りが届くたびに、あの時の母の手のぬくもりや、お祭りのざわめきが、鮮やかに胸の奥に蘇る。
歳を重ねるほどに、その記憶は不思議と研ぎ澄まされ、いっそう深い色を帯びていく。

林哲也

投稿日(2025/10/06)