介護事業所の経営と労務管理

介護保険法改正案が可決(11.06.15)

●介護保険改正可決
 6月15日に、24時間対応の訪問介護・看護サービスの創設を目玉とする改正介護保険法が、参院本会議で与野党の賛成多数で可決・成立しました。
 今回の改正の大きな柱は、高齢者が独り暮らしや重度の要介護状態になっても、住み慣れた地域で暮らし続けられるようにするのが狙いとされています。
●24時間対応の新サービス
 ポイントは、24時間対応の新サービスは、ヘルパーと看護師が連携して、定期的に利用者を訪問して短時間介護などを行うほか、要請があれば随時駆けつけます。
●財政安定化基金の取り崩し
 もう一つのポイントは、現在、保険料の全国平均(65歳以上)が月4160円ですが、この保険料の上昇を抑制するため、各都道府県の財政安定化基金を取り崩して、保険料を軽減できるようにしことです。
●介護予防のための生活支援サービス
 その他、介護の必要度が低い軽度者向けに、市町村の判断で介護予防のためのヘルパー派遣や、配食、見守りなどの生活支援サービスを総合的に提供できる制度を創設できることも盛り込まれています。
●今後の焦点=保険料負担と介護職員処遇改善の経費の確保の見通し
 介護事業者にとって、今後の大きな関心は、12年度の介護報酬改定の行方も含め、介護職員の待遇改善経費をどう確保されるかです。
 保険料の水準は、「処遇改善交付金」が般財源で賄われるか否かに左右されます。低賃金が人手不足を招いているとされる介護職員の賃金を月額1万5000円引き上げるための基金ですが、来年3月には予算を使い果たす見通しです。
 厚生労働省の案のひとつとして、交付金の終了時にちょうど3年に1度の改定期を迎えるので、介護報酬を2%アップして、財源を捻出ことも想定されていたようです。
 しかし、介護報酬をアップして交付金分に対応しようとすれば、保険料に直結することになり、保険料が5000円を超えることになるのが確実と言われています。一方、交付金など一般財源を充てると5000円未満にできるので、民主党や公明党などからは交付金継続を求める声が上がっているようです。
 しかし、介護報酬なら保険料もアップし所要税財源は500億円で対応できのですが、交付金なら1900億円かかる見通しで、東日本大震災の影響で財政状況が厳しいと言えます。

介護の24時間サービス(10.07.28)

 高齢者賃貸住宅を経営している方と話をしていて、ある家族の介護の例が話題となった。

★介護保険が始まったころは「これで家族介護の呪縛から解き放たれて社会的介護の時代が来る」と思っていた。

★しかし、数年前からの介護利用抑制施策によって「同居親族」が居る過程での介護サービスが抑制され、家族の負担が大きくなり介護への呪縛が始まった。

★呪縛にとらわれることによって、生活そのものが破綻しつつある。

 

 「何とかならないか」と話題になったが、厚生労働省の介護の課題展望では、「介護の24時間対応サービス」や「介護認定の簡素化」「利用上限の見直し」などが提起されている。

 費用増加問題もあるが、制度の本質論からあり方について検討をしてもらいたい。

 

■昨日、小豆島に出向いて仕事をした。24時間サービスを考えていて、目の前の有名な「24のひとみ」の像に目が向いた(少し意味が違うが、24つながりで)。

24のひとみ.jpg

介護保険制度10年、「改革へ難題」(10.07.27)

 本日、7月27日の日経新聞を見ると「介護保険10年、改革へ難題」の記事がある。

①給付のあり方【施設】

 介護保険施設や民間の生活支援付き高齢者専用賃貸住宅のあり方

②給付のあり方【在宅】

 24時間対応の在宅サービスのあり方のほか、要介護認定の認定区分の簡素化や利用限度額の見直し

③給付と負担のあり方

 保険料や利用者負担のあり方、給付に投入する税財源の割合

④介護人材の確保と処遇の改善策

 介護サービス事業者の労働法規制遵守やキャリアアップの仕組みを導入するための促進策

 それぞれが重い課題だが、避けて通れないのも事実だ。

改訂版「実例でみる介護事業所の経営と労務管理」が2010年7月30日発売(10.07.21)

 昨年末に「売り切れ」状態となっていた「実例でみる介護事業所の経営と労務管理」が日本法令より改訂版として発売されることになりました。

 本書では、章立てをみなおして、新たにキャリアパス制度の要件の確認や戦略的な対応策について書き下ろしました。また、1年間の推移をふまえて必要な改訂を加えました。

 初版本と比較して、相当大きな改訂を加えたものとなっております。特にキャリアパス制度に関する専門的な対応書籍としては、日本初と考えています。

実例でみる画像.jpg

 注文は、下記のアドレスから日本法令専用の注文用紙がダウンロードできます。

 この用紙を使いますとリーズナブルに注文出来ますのでご活用下さい。

  ⇒ http://www.godo-k.co.jp/pdf/100721dm.pdf

   

日本法令より出版しました(09.10.31)

 今年春の「実例でみる介護事業所の経営と労務管理」に続いて、次の二つを出版しました。

 

①「実務に役立つ介護事業所のための業務・労務管理書式集」

 介護事業所向けの出版ですが、「介護職員処遇改善交付金」や「キャリアパス」関係の資料もつけております。

 下記のアドレスでリリースされました。

   http://www.horei.co.jp/shop/cgi-bin/shop_itemDetail.cgi?itemcd=1330008

 また、下記の注文書PDFをダウンロードして送付すると送料無料で値引きもしてくれます。

   http://www.godo-k.co.jp/pdf/1026dm.pdf

 

②『介護職員処遇改善交付金』の概要・申請手続と活用のポイント(セミナー動画CD-ROM

 下記のアドレスでリリースされました。

 これは社労士向けのセミナーとなっております。方言丸出しで話をさせてもらいました。

   http://www.horei.co.jp/seminar/MOVIE/index.html#01

「実務に役立つ介護書式集」 発刊へ(09.09.08)

最近、このブログの更新が滞りがちでしたが、実は、8月上旬から日本法令より上記のような「実務に役立つ介護書式集」の作成依頼があり、9月末頃の発刊が予定され、その資料集めと作成におわれる日々でした。

 

通常業務をしながらの作成でした。お盆休みや土日を軸にして1カ月足らずで対応したことになります。

 

改めて介護事業所に足を運び、実際に使っている書式を見せてもらって思ったのですが、「行政に出すため(見せるため)の書式」というものは味気ない。それに比べて、実際に「業務で使うための書式」というのは非常に生々しく、工夫がこめられているのです。

 

この書式集は、①業務書式、②労務管理書式、③許認可様式の3本柱となり、それぞれ、実際に使われている、即戦力の書式が濃密に詰まっているというものにして一風変わったものが出来ればと願って対応をしたものですが、できあがりはいかがなものになるか、お楽しみにお願いします。

介護職員処遇改善交付金の交付率など(合同経営の「経営レポート」がダウンロードできます)(09.07.03)

 介護事業の経営者の皆さんや管理者の皆さんは、常々「何とかして職員の給与等の処遇を改善し、職員募集や雇用継続の条件整備が出来れば」と思われてきたと思います。

 話題になっていた介護職員の処遇改善を目的とした「介護職員処遇改善交付金」(以下、「交付金」)の支給率などの全容が徐々に明らかになりました。

 迂闊に「お金をもらうための書類を準備したら良い」という程度では戦略的な対応にはなりません。「処遇改善」のための慎重な施策の具体化がもとめられます。

 「キャリアパス制度」の実施などの改善施策を具体化するためには、行政書士・社会保険労務士・税理士等の専門家と戦略的な対応を検討しながら準備することが不可欠です。

■合同経営が発行した経営レポートがダウンロードできます。

  経営レポート(介護職員処遇改善交付金).doc  

(以下、「経営レポート」の一部を紹介します)

 

【サービスごとの交付率】(※旧交付率案は、427日付事務連絡時に提示された交付率です)

サービス名

※旧交付率案(%)

最終的交付率(%)

・(介護予防)小規模多機能型居宅介護

2.3

 

4.2

・(介護予防)訪問介護

・夜間対応型訪問介護

4.0

4.0

 

 

 

 

4.0

・(介護予防)認知症対応型共同生活介護

2.0

 

3.9

・(介護予防)特定施設入居者生活介護

・地域密着型特定施設入居者生活介護

2.3

1.5

 

3.0

・(介護予防)認知症対応型通所介護

1.8

 

2.9

・介護福祉施設サービス

・地域密着型介護老人福祉施設

・(介護予防)短期入所生活介護

2.3

1.5

2.9

 

 

 

2.5

・(介護予防)通所介護

2.6

 

1.9

・(介護予防)訪問入浴介護

2.6

 

1.8

・(介護予防)通所リハビリテーション

1.5

 

1.7

・介護保健施設サービス

・(介護予防)短期入所療養介護(老健)

1.8

2.0

 

1.5

・介護療養施設サービス

・(介護予防)短期入所療養介護(病院等)

1.5

1.5

 

1.1

【助成対象外】

(介護予防)訪問看護   ・(介護予防)訪問リハビリテーション

・居宅介護支援      ・介護予防支援

(介護予防)福祉用具貸与 ・(介護予防)居宅療養管理指導

 

 

認知症と独居高齢者の加算制度を適用する場合の「条件」(09.06.09)

 少し遅くなりましたが、上記の「条件」について高松市役所の介護保険課に出向き、担当者に「条件」を明示したことをお知らせします。

 担当者は「御社が自主的に考えている条件ですので、これを実施してください」と言うばかりで、「この条件で、良いか否か、ご判断の上文書にてご回答いただけるようお願い申し上げます。」という要望については、言を左右にして回答を約束しませんでした。

 その後、上司が出てきて「条件」を受け取り「県とも相談して回答」という言葉を得ました。その後、行政側からの正規の回答が得られていませんが、一定の期日を経て確認を実施する予定です。

 当社が高松市に提示した加算の「条件」を再掲示しておきます。 

 香川県ケアマネジメントセンター株式会社では、認知症、独居高齢者加算は、下記のいずれかの条件を満たすものを算定することとする。

 

1.自宅への訪問回数が月2回以上ある場合

2.本人もしくは家族、利用している事業所との連絡調整のため、頻繁に電話での対応が必要である、もしくは長時間になる場合

3.認知症、独居であるため必要なサービスが変更され、サービス担当者会議を開催した場合

 

 なお、これらにかかる内容についてはすべて、居宅支援経過、及びサービス担当者会議等に記載するものとする。

「介護職員処遇改善交付金」(仮称)の概要が発表される(09.06.03)

 上記の制度が、いよいよ動きだすことになりました。

 介護職員の処遇改善のための交付金の骨格部分が見えることになりました。

kaigosyogu.jpg この交付金は、介護職員の賃金の確実な引き上げをめざした制度で、2009年度補正予算に盛り込まれたものです。処遇改善に取り組む事業者に対する助成措置として実施されます。

1.実施主体は都道府県であること。基金を創設して国保連を通じて交付金が事業主に支払われれます。

2.支給金額は、事業所に支給される介護報酬総額に対して、サービス毎の人件費比率を乗じて計算されます。

(交付率等の詳細は、 介護職員処遇改善交付金(仮称).pdfを参照)

3.今後の予定は、7月に事業所への説明会を実施し、8月に交付金申請の受付を開始、10月のサービス分から交付金の算定対象となり、11月の請求分とあわせて12月に交付金が実際に事業者の口座に振り込まれることになる見込みです。

4.交付金を受けるためには、事業者は処遇改善計画を作成し都道府県に提出することが求められます。

 事業主に求められるのは、①改善計画の作成と、②計画書の介護職員への周知です。

 この「計画」がポイントのようです。

 「計画」では、交付金の月当たりの見込額や職員一人当たり野改善見込額(月額)や、基本給の増額、手当の新設、賞与の新設などの個別的方策を記載することが求められるようです。同時に、前年度の支払い実績を比較する情報の報告が求められる見通しです。

 これにあわせて、人事制度の整備、昇給、昇格用件の明確化などの処遇全般、人材育成環境の整備、出産・子育て支援などが求められます。

 なお、翌年度からはキャリアパスに関する用件が満たされなければ減額措置があるようです。

介護に関するトラブル 「有料老人ホームの問題」(09.05.25)

 日本法令の編集部からの依頼で2009年5月23日に大阪の弁護士さんと面談し、介護業界における訴訟やトラブルについての実態について意見交換を致しました。

 意見交換の最後に「特養や老健などの入所待ち状態の施設において『顧客満足の追求』が、運営上では『不要なコスト』と位置づけている経営者もいる」と説明したところ、驚きを持たれました。

 顧客に喜ばれないのでは、顧客から敬遠され、ひいては選ばれなくなるというサービス業における市場とサービスの質の関係性は、介護業界では直接的ではない状態(つまり「お世話になっている」等)が根強い状態にあることです。

  特養は38万人を超える空き待ち状態なので、これ以外で24時間サービスに対応する有料老人ホームを選択する場合が急増しているようです。私は「この分野では『顧客満足』の追求の姿勢が問われる時代になっているのではないか」と意見を述べました。

 早速、5月24日の朝刊の朝日新聞では、有料老人ホームの入居にあたって、サービス、料金などのトラブルが急増していることが報じられていました。

 地方の有料老人ホームでは、当初に支払う入居費用が不要であったり比較的少額のところが多いのですが、都市部では1000万円を超えるのが常識のようです。

 それだけに「払った費用に見合うサービスレベルかどうか」に関心が集中することになります。

 朝日新聞の記事は下記です。

 

有料老人ホーム.jpg http://www.asahi.com/national/update/0523/TKY200905230252.html

加算制度の適用基準を市に確認する予定です(09.05.21)

高松市.jpg

 先日、このHPにて、認知症と独居高齢者の加算制度を適用する場合の「後出し条件」の問題について書きました。

 当社として検討をした結果、後々の行政の調査時に「後出し条件」の「具体的な条件」が明示されて、遡って返納を求められるようなことを回避し、安心して業務を執行するために、行政側が明示しないならば当方から考えている条件を明示し、その妥当性について文書で回答するように求めることにしました。

 さっそく、当社のケアマネージャーの一人が、保険者である高松市宛に文書を作成しました。

 25日付けで提出を予定していますが、次の文面を予定しています。

 

 

 

高松市介護保険課御中

平成21525

香川県ケアマネジメントセンター株式会社

 

 

 時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。さて、先日の高松市指定居宅介謹支援事業者連絡協議会において、認知症、独居高齢者加算につきまして、算定の際は居宅介護支援の手間を勘案するようにと指導がありましたが、当事業所におきましては社内で統一した以下の条件を満たすものを算定する事にしたいと考えております。この条件で、良いか否か、ご判断の上文書にてご回答いただけるようお願い申し上げます。なお、この条件は、高松市、及び香川県が行う実地指導及び監査の際に当事業所が指導先に掲示するものといたします。お忙しいことと存じますが、よろしくご検討の程お願いいたします。

 

 

 香川県ケアマネジメントセンター株式会社では、認知症、独居高齢者加算は、下記のいずれかの条件を満たすものを算定することとする。

 

1.自宅への訪問回数が月2回以上ある場合

2.本人もしくは家族、利用している事業所との連絡調整のため、頻繁に電話での対応が必要である、もしくは長時間になる場合

3.認知症、独居であるため必要なサービスが変更され、サービス担当者会議を開催した場合

 

 なお、これらにかかる内容についてはすべて、居宅支援経過、及びサービス担当者会議等に記載するものとする。

 

加算制度が、「条件付き」に!(09.05.18)

 「介護職員の待遇改善」の錦の旗が、早くも変色し始めています。

 居宅介護支援事業における「認知症加算」と「独居高齢者の加算」制度についての行政の説明会では「単純に認知症や、独居だからということで加算申請は出来ない」と説明がありました。

 「介護の手間がかかっているから加算をつけているのだから、手間がかかっていないのなら加算を申請出来ない」とのことでした。

 いつも思うのですが、行政の手続きで介護保険制度ほど「口頭による通達」と「後出しジャンケン」がまかり通っている領域は珍しいと思います。

 

①不思議な「口頭による通達行政」

 報酬を受け取る基準となるべき事項が、集団説明の場における「口頭連絡」でことが済まされるということ自体が正確さを期すべき行政のあり方としておかしいものです。

 行政の指導は、再現性のある文書で行うのが原則です。

 認知症の方や独居の方のサービスを提供している場合は「加算出来ます」と明示されているにも関わらず、その条件がありました。「手間がかかっていない場合は、加算申請出来ません」ときました。

 では、「手間がかかっている」かどうかの基準とは何なのかがについては、明確に具体的な説明が有ったかというと、これが全く不明確。

 情報が明確に組織的に普及されるためには、集団指導の口頭連絡だけでは不可能なことは当たり前のことです。

 この点が、非常に問題の大きなポイントの一つです。

 

②公明正大さに欠ける「後出しジャンケン」的指導

 介護保険制度が始まった頃に「毎月訪問」の基準も「特段の事情があるならば、翌月でも可能」との説明が行われていました。

 しかし、実地指導に来た職員は、調査のふたを開いて「特段の事情」とは「単に訪問したが不在だった」は違うという見解を説明されてしまいました。

 それなら、そうと早くから明確に説明をしてくれていれば、その基準で行動をしたのですが、実地指導は、後出しジャンケンそのものでした。

 誰が見ても分かる明瞭な基準を出さず、調査の段階で減算となる基準を明示するなどというのは、本当にフェアな行政活動とは思えません。

 今回の「介護の手間がかかっているかどうか」も要注意です。

③「介護の手間」を独自の3基準で検討

 県ケアマネとしては、①2度以上訪問した場合、②新たなサービスを利用するようになった場合、③頻繁な連絡を取った場合という3つの基準としてはどうかと論議しました。

 これを保険者であるところの市の介護保険課宛に質問をしてはどうかということになりました。

 文書で質問し、間違っているなら文書で回答せよと要望する予定です。

今後の介護報酬と制度の改正を考える(09.05.09)

(1)制度は5年ごと、報酬は3年ごとに見直し
 介護保険は、制度見直しが5年に1回、報酬見直しが3年に1回実施されます。2005年に制度改定、2006年に報酬改定がありました。今年、2009年は報酬改定が実施されましたが、次は、2010年が制度改定の年となります。
 介護報酬の改定は、法改正を必要とするものではありません。審議会(社会保障制度審議会)の諮問を通じて厚生労働大臣が決定する公共料金の一つだと言えます。

【改正の年】

報酬

制度

2009

2010

2012

2015

2015

 2015年は、制度と報酬の両方の改定の年となりますので、相当大きな改定が行われる可能性を持っています。
 過去の事例では、2005年の制度改定で「介護予防」の仕組みが導入され軽度の介護度の利用者が介護保険制度から介護予防に以降する制度が打ち出され、それに合わせて翌年の2006年に介護報酬の改定が実施されたことは記憶に新しいことです。
 この改定によって、実質的には訪問介護や居宅介護支援事業などの事業収益は大打撃を受けました。

 

(2)医療報酬の関連も重視する
 もう一つの側面は、医療との連携の側面です。
 医療行為や調剤などに対し、国が定める価格表を「診療報酬」といいますが、この診療報酬は、おおむね2年に1度改定されます。
 当面2010年、2012年と改定が実施されることになります。
 介護保険制度の関連では、2012年の報酬改定がどのようになるのかが注目されていますが、医療報酬との調整が焦点となることは間違い有りません。

 

(3)2015年に向けて大きな曲がり角に
 従って、2012年に向けては医療との連携や医療との棲み分けについて見直しの手が加えられる可能性が大きいと考えられます。
 また、その後の2015年に向けた3年間で、介護保険制度のさらなる抜本的な改正が検討される可能性があります。
 考えられるキーワードは、
① 介護保険の被保険者の年齢を現在の40歳以上から20歳以上へと引き下げる可能性があること。
 このことによって、介護保険料を支払う母数が拡大され、介護財政の基盤が強化できることを狙うものと思われます。
② 上記の①ともあわせて障害者介護を介護保険制度に統合する可能性があること。
 若年者が介護保険料を支払うことになれば、「加齢にともなう給付」としての介護保険制度では、若年者は保険料だけを徴収されることになり、保険制度として保険と給付の統一が実現できないことになります。
 したがって20歳以上の若年者からの保険料徴収と障害者介護との統合は不可分一体の関連性があると言えます。
③ 介護保険の重度化シフトということで、介護度2までの軽度については、介護予防に移行する可能性があること。

 

 いずれにしても、これからの数年間の対応が将来の方向性を決めると言えます。制度と報酬の改定という重要な経営環境の変化には敏感にならざるを得ません。

いまだに「虐待」と「身体拘束」が?(09.05.08)

 地元の介護事業者の会合で「虐待」と「身体拘束」が話題となりました。
 介護事業に従事するためにヘルパー研修を受けると、必ず施設実習があります。

 

 この施設実習を受講した者から、必ず「幻滅」の声が聞こえるという話題でした。
 せっかく「人の役に立ちたい」と思ってヘルパーになろうとしたのだが、施設実習では、陰湿さのある「虐待」と「身体拘束」を目の当たりに見てしまい、心が萎えてしまうということでした。
 会合では「いまだに『虐待』と『身体拘束』をしている施設が残っているのか」と驚きの声が起こりましたが、これが「少数派」とは思えない状況にあることが問題として話題に。
 ある参加者は、大規模施設で目の当たりにしたこととして「身体拘束でもしないと手が回らないし、虐待と取られても、おむつ交換のために一斉におむつを脱がせてまわったり、入浴の準備のために裸でたたせなければ仕事が回らない」という実態だったそうです。
 また、食事の介助では、一人に食事介助をしていると、「時間と対応する人数を考えるとそれでは間に合わない」と職員に叱責され「順番に並べて次々と口の中に放り込む」ように実習指導があったようです。

 

 利用者本人が訴える事無く、家族も知らないところで行われている場合は、闇の中ということで紛争とはならないことになります。家族も「お世話になっているから」ということで知らないふりということが多いようです。
 将来の介護を考えると改善すべき問題の一つだと思います。

 

 議論では、現場の実態を「経営幹部が知っていたかどうか」が話題となりましたが、目の前の入居者への対応のためには、仕方がないという悪循環が繰り返されていることが問題ではないかと話題になりました。

 

 悪循環を絶つためにも「何のために経営をしているのか」「何のために働いているのか」という根本の基本理念に光をあてていくことから改善が始まると思います。
 この点では、大規模な施設であろうがなかろうが、十分に注意すべきことでしょう。

  

 なお「虐待」については、利用者の家族(それも直系尊属)による「虐待」と介護労働者による「虐待」とは精神構造が少し異なる点も、今後の研究課題ではないかとの議論もありました。

 この点は、また、日を改めて検討していきたいと思います。

「要介護認定等の方法の見直しに伴う経過措置について」を考える(09.04.25)

 平成21年4月17日に厚生労働省は「介護保険最新情報」Vol.80を発表しました。

 本文は、  SVOL80.pdf ←をクリックするとダウンロードできますので、是非ともご一読下さい。

 厚労省としての対応方針や質疑応答があります。

 この内容を読んでみて、私なりに思うことは、

 

新方式は見直さず、短期的な「経過措置」に

①今回のこの措置は、期間は不明ですが「経過措置」であって、厚生労働省としては、新しい要介護認定の方法は、将来的に実施するという姿勢を示していること。

 文中でも「要介護度は病気などの重傷度ではなく、必要とされる介護の量で決まります。これまで通り、『要支援1~2、要介護1~5』の7段階であり、要介護度の仕組みそのものが変わるわけではありません。」と述べています。

 「要介護度が変わっても従来どおりを選ぶことができます」という「ご協力のお願い」が添付されていますが、表題と真意は別のことです。当分(例えば、「次の介護認定までは」等)は、従来より介護度が下がる場合は、従来の介護度としますが、いずれにしても「必要とされる介護の量」で認定をする基本方針は変えない、ということです。

 制度改正の歴史を見ると、制度激変のときは激変を一定期間は緩和しながら、「慣れ」てきたら(ガスが抜けたら)おもむろに移行してきた歴史がありました。

 

新規の認定者は新方式、事実上の二つの認定方式が併存

②もう一つは、平成21年4月以後に新規に介護認定を受ける方は、こうした「経過措置」は、そもそも「従来の介護度」はありませんので、適用するという仕組みが成立しませんので新しい方法がそのまま適用されることを十分に理解して、介護認定に挑む準備をしておく必要があることです。

 質疑応答でも「新規認定者については、新たに介護保険の対象となる者への認定であり、従前の要介護度との比較ということではなく、一度判定された要介護度より重度または軽度の要介護度を希望する場合には・・・・審査請求の手続きをご利用いただくこととなる。・・・」と回答しています。

 つまり新規に認定申請をする者は「経過措置」の対象とはならないので不満があるなら「どうぞ審査請求をしてください」という文章です。

 しばらくの間は、介護認定には事実上の二つの基準(ダブルスタンダード)の併存状態となります。だからこそ、上記の①で指摘しているように「経過措置」は、そうそう長期にわたることはあり得ないことになります。

 新たに認定を受ける方は、実態からあまりにも外れた軽度の認定とならないように、事前の主治医との打ち合わせをきちんとすることや、認定調査員に日常生活で困っていることの具体的な内容や頻度を詳しく伝える努力が大切になります。

 

 本書で指摘した「介護認定の方法」の変化の経過や方向性は、残念ながら懸念している方向で変わりが無いようです。

介護保険の社会的役割 家族が「受容すること」への関わり(09.04.25)

 先日(平成21年4月18日)、地元で介護をしている妻が夫を殺そうとし、その後、自らの命を絶った事件がありましたが、本当に類似している事件として、元タレントの清水由貴子さん(49)の「自殺」があり、世論が改めて「家族の介護」の厳しさについて注目されています。
 介護保険の施行の基本理念が「家族介護から社会的介護へ」と言われ、「クオリティ・オブ・ライフ」(QOL)の追求をすることが宣言されていました。


 多くの解決すべきことが介護保険制度にはあります。しかし、介護保険制度が施行されて10年を経て「介護」は、明らかにイメージが変わりました。
 35年前に、私の祖母が介護を必要とする状態となり、当然のこととして「嫁」である母親が、雑貨店の店主として経営をしながら3年ほど家族介護の担い手となりました。注文を受けたらバイクで酒を配達したり、店番をしたりしながら、介助し食事の世話をしていました。
 今から思い出すと本当に厳しい様相でした。だんだんと家の中が暗くなり「帰りたくない」と思うようになりました。
 当時、私は高校生でしたが、母親が父親に「町役場に相談したら『ヘルパー』さんという人が来てくれるらしいが、どうだろう」と話をしていたのを思い出しました。
 父親は一言。「そんな、ふが悪い(格好の悪い)ことは出来ない」と却下。


 その後、母は近所の気安い知り合いの主婦の方の手を借りながら何とか3年間の介護を続けました。5月の連休の暖かい日に祖母は母親に看取られながら自宅で息を引き取りました。
 介護の2年目に入った頃は、祖母は今で言う認知症状態でしたので、私は恐ろしくて近づけず「早くいなくなれば・・・」と思っていたのを思い出しました。


 今日では、とりあえずヘルパーさんにお願いすることは「恥ずかしいこと」という風潮は無くなりました。
 しかし、介護を必要とする家族が家の中に生まれた時には、その事実を受け入れる「受容」をすることは、肉親にはとても悲しく、厳しく、暗い穴に落ちるような気がするのは痛く分かります。
 その「受容」していくプロセスが介護サービス事業者やケアマネに求められる最初のプロセスなのでしょうか。地元の事件と清水さんの事件は、そう教えているように思います。


 清水由貴子さんの若い頃の報道が次々と流されていますが、本当に身につまされます。
 あらためてご冥福をお祈りします。

「家族構成の変化」(09.04.22)

 今朝のNHKの「生活ほっとモーニング」も、昨日に続きシリーズとして介護保険を取り上げていました。
 テーマは「シリーズ10年目の介護保険(2) 想定外の家族たち」で、介護保険制度が制度設計をする段階では予測していなかった家族構成になっていることを特集していました。
 ゲストには、昨日と同じ洋画家の城戸真亜子氏と、新たに淑徳大学准教授で元ケアマネージャーの結城 康博氏が参加していました。
 今回の注目点は、介護保険制度が予測しきれていなかった家族構成として、①未婚者の増加によるシングルで父母の介護をすること、②お互いが介護を必要とする者同士という意味で、老老介護や認知症どうしの認認介護の事態も広がっていることを指摘していました。
 しかし、私は若干、違和感を覚えました。
 実は、介護保険施行時に、依頼されて「これからの介護」ということで、その中で家族構成の変化についての予測について調べて話をしたことがあります。
 その時に「老老介護」として高齢の親を介護する高齢の子供というシチュエーションは広がることを話題にしたことがありました。当時から、認識され人口統計資料も踏まえて認識はされていたはずで、最近分かったというものでは無いはずです。
 「認知症」という用語は2004年に厚生労働省の用語検討会によって言換る報告が出されたのが始まりです。認認介護という組み合わせも実態的には、以前から有ったはずです。
 問題は、従来は大家族で生活をしていたのですが、少子高齢化の進展で、家族構成が核家族化し、小規模化したことで介護を必要とする人同士が同居して生活をせざるを得ない事態が広がっていることでしょう。
 介護保険の施行前後の説明では「家族介護から社会的介護へ」との理想で介護保険制度に取り組んできたと思いますが、その後に介護保険制度の利用抑制施策によって「家族介護」を基本に仕組みを考えていくことが求められることになり、実質的には介護保険の基本理念が異質なものになってきたように実感します。
 それにしても「家族構成の変化」の論点は、今後の介護のあり方を考えるためには重要なベクトルであることは間違いないことです。

シリーズ10年目の介護保険(1)介護報酬改定の波紋(09.04.21)

 本日、NHKの生活ほっとモーニングで「シリーズ10年目の介護保険(1)介護報酬改定の波紋」をテーマにした放送がありました。

 洋画家の城戸真亜子氏、立教大学教授の服部万里子氏をゲストにしていました。

 番組では、認定調査における不安と不満を取り上げるとともに、介護報酬の改定によって訪問介護事業所が特定事業所加算をおこなうことで限度額ギリギリで介護を受けていた利用者の負担増となる問題を取り上げていました。

 特に、認知症利用者等の限度額ギリギリまで利用している方が、今回の特定事業所加算を取ると、その分全額自己負担となる場合は、「生活そのものを事業所加算分で破綻させかねない」ということで加算を選択しないことと苦渋の決断をした事業所の事例を紹介していました。

 服部教授は、①利用限度額の上限の見直し、②研修費用や介護福祉士の賃金については、介護報酬ではなくて直接に事業所に支給する方法を検討すべきとの主張をしていました。

 仕事の手を止めて、聞いておりましたが、やはり認定調査と介護報酬の問題は、社会的に注目を浴びている重要な事項であることが浮き彫りになっています。

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